5 JAPAN統一

 NC700年頃、JAPANの藤原石丸が一時的に大陸の大半を支配下におさめた。
 そのまま大陸が統一されてしまえば創造神ルドラサウムの不興を買い世界が崩壊する危機に陥るため、3超神の1柱であるプランナーの指示により魔王ナイチサが藤原石丸を打倒することとなる。
 それを実際に行ったのが、当時の魔人としては最強の部類に入る魔人ザビエル(信長の前身)である。

 最古の魔人ケイブリスとも互角の戦闘力を誇るザビエルは、わずか2か月で藤原石丸が率いる軍勢JAPANまで押し戻し、その後石丸の首をはねている。
 ただし、ザビエル自身は石丸とともにあった天志教の僧、月餅によって8分割され封印されてしまう。

 その後ナイチサ、ジル、ガイの魔王時代を経て、リトルプリンセスの時代LP年代初頭、長い戦乱のはてに尾張の国の領主、織田信長に乗り移ることによって魔人として復活。
 JAPAN統一を進めるとともに、領民等の大量虐殺をおこなうなどJAPANは暗黒時代になろうとしていた。

 そこに大陸の東側を制圧したリーザスが天満橋をこえて侵攻を開始。
 ここにJAPANの国論は二分した。
 ひとつは、たとえ悪主であろうともJAPAN人である信長の統治を望む論と、もうひとつは悪主である信長を除いてくれることを望む論であった。
 初めの論は、比較的最近になって信長の軍門に下った東国(特に佐渡以東)に多く、後の論は早くに下ったため信長の暴虐武人ぶりを肌身で知っていた西国に多かった。
 そのため前の歴史では、信長を打倒した後も東国に反乱勢力が割拠するということになってしまったわけである。



 そこでランスは、長崎を制圧した後に大阪侵攻を急がず、信長後のJAPAN統治について周知することに腐心した。
 信長配下の武将としては穏健派である山本五十六をJAPANの主とすることを徹底的に周知し、もともと東国出身である山本家ゆかりのつながりから東国を切り崩しておいたのである。
 また、武家以外の民衆に対するアピールとして、ランスが聖刀日光を帯刀していることも周知徹底された。

 ランスは、魔人領の争いに介入するため、できうる限り早期に人類圏の統一を果たすことを計画していた。
 今回、ホーネットたちがケイブリスに負けることは考えにくいが、それでもランスはホーネットたちのところに早く向かいたかったのである。
 そのために、JAPAN統一を打倒信長をもって一気に終了させたいと考えていたわけである。
  
 そして、リーザス軍の侵攻速度がゆっくりであったために、ある存在が大阪城決戦に間に合うことになった。





 「くっくっく……魔人であるにも関わらず、人間ごときの下につくか。わしが封印されている間にずいぶんと魔人の地位も落ちたようだな」

 小癪な人間どもの軍勢を蹴散らせてやろうと、大阪城からゆっくりと歩み出た信長の前に立ちはだかったのは、ランスではなくやや小柄な女性であった。
 その脇に控えるガーディアンだと思われる存在を前に出すことなく、自らが戦う姿勢を見せているのは、リーザス城から駆けつけたサテラである。
 サテラは信長が封印された後の時代(魔王ガイの時代)に魔人となった存在なので、信長はサテラを知らなかった。
 ただ、サテラから発するプレッシャーや自分以外の戦う存在であるガーディアンを従えている点からいっても、それほど戦闘力が高いわけではなく、完全復活していない自分でも十分に勝てる相手であろうと判断していた。
 そして目の前の魔人さえ倒してしまえば、後に控える人間どもの軍勢などいくらいようとも簡単に蹴散らせるとも考え、その虐殺を想像しては魔人としての血を高ぶらせていた。


 この信長の判断は、前の歴史であれば正しかったであろう。
 だが今回、サテラの後ろにはサテラをはるかに凌駕する存在であるランスが控えていたし、何よりサテラが前回とは違った……





 サテラの戦闘力を見切った(と信じた)信長は、無造作に足を進めると一瞬にして右手に持つやりに炎をまとわせ、サテラの心臓めがけ繰り出す。
 だが、その必殺の一撃は、わずかに体を開いたサテラをかすめて空を切る。
 はたから見ると、かろうじてかわしたかのようであるが、見る者が見れば完全に信長の攻撃を見切っていることが見て取れたであろう。
 本来の信長であればそれに気づいたであろうが、初見でのサテラの戦闘力が低かったこともあり、その実力をあなどったままであった。

 「ほう、小娘。よくかわしたな。だが、いつまでかわし続けることができるかな」

 本来、攻撃を見切った上で紙一重でかわせるほどであれば、そこからすぐにカウンターの攻撃を放つことも可能であろう。
 だが、サテラは攻撃をかわしたあとに攻撃をしてきていない。
 それは信長の一撃をかわすので精いっぱいだった……と、信長は考えてしまったわけである。





 今現在、最強の魔人はケイブリスであろう。
 最古の魔人として戦闘に明け暮れたためである。
 だが、ケイブリスはもともとリス族という弱小の魔物にすぎなかった。その強さはほかの追随を許さないほどの長い魔人としての経験ゆえである。
 現在の魔人四天王の中で、ケイブリスをしのぐ可能性があったのはカミーラであろう。 もともとがドラゴン族という最強種であり、魔人となってからの歴史も長い。
 だが、カミーラはもともと魔人になりたくてなったわけでもなく、そのうえ性格的に怠惰なところもあったため自分の強さを磨くことに無頓着でありすぎた。
 現在、自分としてはありがたくないケイブリスのプロポーズという状況を考えれば、もっと強さを求めればよかった、という後悔もするのだが、だからといっていまさら強さを求めるほど勤勉なカミーラでもなかった。

 ……閑話休題

 その中にあって、ケイブリスをしのぐ可能性があるのが、実は信長であった。
 信長の前身は、魔人ザビエル。AL教の僧である。
 なぜ藤原石丸の大陸統一の覇業を阻むのにザビエルが選ばれたかというと、石丸のそばに控える月餅が天志教の僧であったからである。
 プランナーは天志教が、悪魔王ラサウムの手先の機関であることを見抜いていたのである。
 プランナー自身は、石丸の大陸侵攻にはそれほどの危機感を持っていなかった。いくら人類圏を統一したとしても、魔人領を席巻できるとは思えなかったし、帝の威光もJAPAN人限定であれば、大陸諸国の反乱もありえよう。
 ましてや、帝の地位は世襲制ではない。石丸が人間としての寿命で死んでしまえば、よりひどい混乱が人類圏に巻き起こることは必至であったろうし、それを彼の主であるルドラサウムは喜んだであろう。
 だが石丸のことはどうでも、それにともなって天志教の勢力が大陸に根ざしていくのを見逃すわけにはいかなかった。
 それは、主であるルドラサウムの力を削ぎ、敵であるラサウムの力を増大させることに他ならなかったからである。
 つまり、ザビエルの投入は藤原石丸の覇業の阻止というよりは、『AL教 対 天志教』という宗教戦争であった。
 そしてザビエルにはかなりの力がプランナーにより付加されていたのである。悪魔の力を借りた天志教の総力をあげても、滅することが不可能で、かろうじて分割封印しかできないほどの力が。
 もし、信長が分割されたすべての力を取り戻したら、ケイブリスを凌駕するかもしれないほどの力が。



 だが、二度目の突きを放った信長は、自分の胸に信じられないものを見ることになる。 サテラの右手より伸びる鞭が灼熱の色をはるかに超えた、蒼白く輝く光の一閃となって信長の心臓を撃ち抜いていたのである。

 「完全に復活してないくせに、あたしをなめるから……」

 さらさらと身体を崩し、魔血魂のみになっていく信長にむけてつぶやくサテラ。
 たしかに完全復活をしていい信長に対してサテラは完全である。だが、それは前述した理由からも意味をなさない。
 いくら完全復活をしていないとはいえ、最強の魔人ともいうべき信長が、魔人の中でも攻撃力に関しては最低に近いサテラに、一撃で倒されるはずはない。
 ではなぜそうなったのか?
 秘密は魔血魂にある。



 サテラは、前回の歴史における魔血魂によって魔人となったメナドたちが、それゆえにランスと深いつながりをもっているように見えて、うらやましかった。
 ゆえに、サテラは”自分にも前回のサテラの魔血魂を”と願ったのである。
 最初、ランスはそれを拒否した……なぜなら、魔血魂を複数個取り込むことは、魔人とはいえ、その本体にかなり大きな負荷をかけるからである……のだが、サテラの強い希望を拒みきれなかった。
 サテラとしては、強いつながりを見せる新魔人に対するうらやましさとともに、前回の歴史での戦闘であまりランスの役に立てなかった自分の戦闘力のなさからも、どうしてもという願いが強かったのである。
 ランス自身は、拒否反応が強ければ、その時に取り出せばいいや。ぐらいの気持ちでいたのだが、その結果は思いもよらないものであった。
 サテラの力が爆発的に増大したのである。


 魔血魂を複数個取り込むことによる拒否反応とは、もともとが違う力や形態の有りようであったものを無理やり抑え込むことによって生じる。
 だが、サテラが新たに取り込んだ魔血魂は自分のものである。拒否反応どころか、完全に同期合体してしまったためにとんでもない力の増大となって表れたわけである。

 たとえて言えば、もともとが同一体であったラ・サイゼルとラ・ハウゼルが合体することで魔人よりはるかに強大な破壊神ラ・バスワルドとなるようなものである。
 そう、ある意味、今のサテラの力は破壊神ラ・バスワルドと比肩する。


 それは嬉しい誤算でもあったが、ランスとしてはそのままにしてはおけない事態でもあった。
 破壊神ラ・バスワルドなみの力が急に発生すれば、プランナーやルドラサウムに目をつけられるのは間違いない。そしてそれはまだまだ時期尚早だった。
 ランスは急いでサテラの力を封印し、その封印を自分でもコントロールできるようになるまで戦闘に参加することを禁じたのである。
 それでサテラは最初のほうのJAPAN戦役には参加せず、リーザス城の封印の間で自分の力をコントロールする訓練に明け暮れていたのである。
 そしてコントロールが可能になって、急きょ大阪城攻略の戦いに参加したというわけである。



 「完全に復活してないくせに、あたしをなめるから……」

 上記のセリフは、あくまでも信長の油断によってサテラが勝てたのだということを、どこかで見ているかもしれない神(プランナー)の尖兵に印象付けるためのものであった。 実際、いくら魔人最強となる可能性をもつ信長といえども、破壊神ラ・バスワルドなみの力で攻撃されてはひとたまりもなかったのであるが、それはまだまだ秘すべき事項だったからである。






 とにもかくにも、一撃で信長は倒されたことによって大阪城は焼け落ちることなく織田軍は降伏した。
 ランスは悠々と香姫を陣中に迎え入れると、JAPANの統治を開始した。
 そして当初の思惑通り北部の反乱もなく速やかにJAPANは併合されたのであった。








 ・・・・・あとがき・・・・・

 同一魔人の魔血魂の同期合体による戦闘力の爆発的増加。
 これが、対神魔戦における隠し玉の一つでした。
 破壊神ラ・バスワルドなみの魔人が何体か(ホーネットあたりであれば、バスワルドをはるかに超える(汗))存在すれば、三超神は無理としても、ほかの神魔とはそれなりに戦えるはずですから……
 それでも、ルドラサウムには到底届かないんですけど……

 打倒ルドラサウムは、まだまだ遠いです(苦笑)

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